ああ、情けない [コラム]
性懲りのない自分に半ば呆れているこの頃なのですが、4月と5月に懸賞小説の締め切りがあり、応募準備に入っています。
なのでまたブログの更新が滞りそうです。
このブログを更新するのは、仕事も気持ちも余裕のあるときなのです。
振り返ってみると、昨年の震災後はかなり滞り、小説を書く気持ちになれなかったようです。
今年はなんとか書いているので、気持ちも少し落ち着いてきたようです。
震災や原発の影響は直接的なことはあまりなかったのですが、、自分でも気がつかないうちに考え方や生き方、将来の考えなどについて、少なからず影響を受けています。
遠く離れた地でもそうなのですから、東北の方々はいまだに心の中が大きく揺らいでいるのでしょう。
新しい価値観 や、精神的な成熟は東北から生まれるのでしょうか。
阪神淡路大震災以降では、ボランティア活動の裾野が広がったように感じています。新しい価値観を基に行動する人が増えたのでしょう。
それにしても、世界情勢や政治の世界は危ういことだらけで、なぜこんなに学習しないのだろうと、正直うんざりします。
優れた頭脳の持ち主は腐るほどいるのに、その頭脳の使い方を知らないのですね。
残念ながら私は優れた頭脳は持ち合わせていないので、心を働かせるしか方法はないようです。
優れた頭脳よりも、優れた心(どんな?)が必要な時代だと思うのですが・・・・
優れた心を教育する場所はどこにあるのでしょうか?
今の学校教育には到底期待出来ないと感じています。むしろその逆で、画一的で効率の良いものばかりが評価されています。(昔からですが、更に加速しているようです)
教育こそが未来を変えることのできるツールであり、今の日本はそうやってここまでやって来たのです(良し悪しは別にして)。
だけど、今の学校教育には良き未来を招く気配はありません。
君が代を歌っているか、口パクかチェックすることに血眼になって、まるで小学生の風紀委員みたいです。
立派な頭脳を持ち、立派な教育を受けてきた人たちが・・・ああ、情けない・・・
ああ、また意味不明は戯れ言を喋りすぎて恥ずかしくなってきました。
もっと理路整然と論を展開出来ればいいのですが、私は感情優先思考型なので失礼しました。
(念のため・・私は特定のセクトに属していません)
吹き溜まり(6) [小説<ろくでもないヤツ>]
吹き溜まり(6)
藪田はそう言うともう一度部屋の中をゆっくりと見廻した。
「だからなんだよ、はっきり言えよ。その三人に辞められたから俺が雇われたんだろう」
まわりくどい話し方に苛つきながら言うと、藪田はゆっくり首を左右に動かした。
「違う。辞めたのは二人だ」
「もう一人は?」
「死んだ………この部屋に住んでいた三浦という浪人生だよ」
心臓がドクンと音を立てた。
「なんで?」
「飛び降りた。配達していたマンションの屋上からだ。寒い日だったね、三浦は屋上で配り終えていない新聞を全部燃やしちまったんだ。綺麗に燃やしきってから飛び降りたらしい。今年の受験に失敗して秋田から出てきたんだ。のうのうと浪人暮らしができる環境じゃなかったんだろう、新聞奨学生になって予備校に通ってたよ。でも夏が終わると予備校には行かなくなったね」
藪田は隅に置かれた盛り塩をちらりと見ると、ポケットからタバコを取り出し火を点けた。ジッポライターからオイルの香りが漂い、煙を天井に向かって大きく吐き出すと話しを続けた。
「俺は三浦の気持ちが手に取るように分かるよ、俺も三浦も浪人奨学生で一年分の予備校費用を借りてて辞められないんだ。最初は新聞さえ配れば金を貸してくれて、しかも一年頑張れば借金はチャラになるし、部屋と食事付きだしこんないい話はないと思ったよ。でも実際やってみるとそんな甘くはなかったね、毎朝三時に起きて折り込み広告を新聞にセットして配達。それから予備校だろう、眠くて勉強なんか頭に入るわけがないし、予備校が終わればすぐに夕刊の配達、それから勉強しようと思ったって身体はくたくたでどうにもならない。気持ちは焦るし勉強は進まない、ストレスは溜まる一方だしね。俺はもう諦めたから何とかやってるけど、そうでなかったら借金踏み倒して夜逃げするか、それとも………真面目に頑張ってる奴はとことん追い詰められるってことさ。俺みたいにちゃらんぽらんな奴しかここではやってけないね。だから奨学生になろうと思ってるなら止めた方がいい、他に方法があればだけどね」
藪田はそう言うと吸いかけのタバコを灰皿に押しつけ、
「ところで、あの盛り塩は本当に三浦のこととは関係ないの?」
と小声で念を押すように訊いた。
「全然関係ないし、その三浦って奨学生のことも初めて聞いたよ。ああやって置くと運が向くらしいからやってるだけだよ」
藪田は俺の返事を聞くと少し安心したように息を吐いた。
「この部屋にはまだ三浦がいるような気がするよ。大して仲が良かったわけじゃないけど、もっと話してたらこんなことにならなかったかも知れないなぁ。今更どうにもならないけど、まさかそこまで追い詰められてるとは誰も思ってなかったんだ。みんな追い詰められて人のことを考える余裕もないんだ。ここは世の中の吹き溜まりだよ。いろんな人間が食い詰めて吹き寄せられてくる」
藪田はそこまで話すと一息ついた。俺も食い詰めて吹き寄せられた一人だけど、俺とは関係ない素振りで、感心したように相づちを打つとまた話を続けた。
「店の金を持ち逃げした奴もいるし、犯罪を犯した奴がしばらく身を潜めてたこともあった。後から警察が足取りを追ってやって来たこともあったね。元会社社長という人は、負債から逃げる為にここにいたこともあったし、浪人生と大学生以外は怪しげな人ばかりで信用出来ないんだ。でも地方から出てきた浪人生はそんな怪しげな人間にコロリと騙されてしまう。地方から出てきたばかりの純朴な受験生を見ると、怪しげな人が受験生詐欺師に変身してしまうことだってある。一番多いのは、知り合いに大学の教授がいるから少し金を用意すれば合格出来るようにしてやるという話だよ。大した金じゃない、十万とか二十万だけど、受験生にすれば大金だよ。
それで合格発表前にドロンして、受験生は合格を信じているから勉強もしないで試験を受け発表すら見に行かないという有様さ。だから今年は誰も合格しなかったらしい。自分だけはあの人の口利きがあるから絶対受かると思っていたんだ。あとからみんな騙されたってことに気がついたけどもう手遅れさ。三浦がその男と関わっていたかは知らないけどね」
藪田の話は俺の想像を超えている。新聞奨学生という爽やかなイメージとはまるで正反対の救いようのない濁った世界に思える。
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吹き溜まり(5) [小説<ろくでもないヤツ>]
吹き溜まり(5)
俺は部屋の中を見廻し、荷物の下に隠れていたリュックの中から水晶玉と塩を取りだした。塩は淡いピンク色で、婆ちゃんが盛っていた純白の塩とは随分違う。でも塩には間違いないしどうってことないだろう。側にあった缶コーヒーの大きめのキャップを外すと塩を山盛りに入れた。正確に東西南北なんて分からないし、おおよその見当で部屋の隅にキャップを置いた。後で誰かに訊いて違っていたら置き直せばいい。
次は水晶玉だ。小さな柔らかい布製の袋から取りだし、手の平にのせてみた。直径三センチはないだろう、手の中に握り込むとひんやりした感触が伝わる。ガラスのように透明でこれが天然の石とは思えない。あの占い師は十分間視線を外さずに見続けろと言ったけど、何の意味があるのだろう。付属の小さな台の上に乗せて目の高さに置いた。透明で向こうが見えるが、魚眼レンズのようだったり、虫眼鏡のようだったりしてどこを見ていいのか分からない。水晶を見ているようでも実際は水晶が写し込んでいるものを見ているような気がする。見れば見るほど何を見ているのか分からなくなるし、頭の中が混乱し始めている。水晶を置いた段ボール箱が上下にゆっくり動いているように見えたり、時には自分も一緒に緩やかに上下に動いているような錯覚を感じる。あやふやな感覚に耐えられなくなり視線を外して時計を見ると三分にもなっていない。十分なんて無理だ。ひどく疲れた気がしてもう一度試してみる気はしない。ごろりと横になり眠気に身を任せようとしたときドアをノックする音がした。
「知念君、入るよ」
藪田の声だ。おう、と返事をして身体を起こしかけた時にはもう部屋に入り、荷物の僅かな隙間を見つけて座っている。第一印象は悪かったけど、こうして目の前に座っているのを見ると、昔からの友だちのような気がしてくる。藪田は黙ったまま部屋の中を興味深そうに見廻し、ギターに関心があるのか値踏みでもするように見ている。小さく頷くようにするとまた面白そうなものはないかと見廻し始めた。
「何なの、あれ」
藪田が指さした先には、先ほど置いたばかりの缶コーヒーのキャップが見える。
「盛り塩だよ」
俺が何の説明もせずに答えると、藪田は驚いた顔で口を尖らせ言葉が出てこないようだ。
「………盛り塩って、あのこと聞いたの?」
眉間に皺を寄せ、俺の顔を覗き込みながら小さな声で訊いた。
「あのことって?」
「知らなかったの?」
藪田は気まずそうな顔で言った。
「何にも聞いてないよ」
「それじゃ、なんで盛り塩なんかしてるの?」
「別に理由なんかないよ、それより、あのことって何だよ」
今度は俺が藪田の顔を覗き込むようにして訊くと、急に口をへの字にして黙り込んだ。正直すぎる男だ。はっきり言えよと少し大きな声で言うと、諦めて話し始めたが、俺から聞いたことは誰にも言うなと口止めされた。
「なんで知念君がここで働くようになったか分かる? 店員が足らなくなったからだよ。三人足らなくなったんだ。仲のいい三人で、その内の一人がこの部屋に十日前まで住んでたんだよ」
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吹き溜まり(4) [小説<ろくでもないヤツ>]
吹き溜まり(4)
だけど新顔に関心のありそうな奴は一人もいないし、どの顔をみても何を考えているのかさっぱり分からない。たとえ話しかけたとしても楽しくなさそうだし、それならその方が俺にとっても好都合でいい。余計な気を遣わなくて済むし、俺の無愛想な態度がここでは当たり前で目立たない。俺も皆の態度を真似るようにわざと乱暴にハンバーグを食べ、黙々と食事を口へ運んだ。ほぼ食べ終えた頃に最後の一人が戻り、冷めたハンバーグの前に座った。確かヤブと呼ばれ、階段を上ったところの部屋にいた男だ。他のヤツらは皆日焼けしているのにこの男だけは青白い顔で、一日中部屋の中に篭もってエロビデオでも見ていそうだ。
「君だっけ、知念君?」
ヤブと呼ばれた男は下を向いたまま小さな声で訊くと、ハンバーグに大きな口を開けて食いついた。
「そうだけど、君は確かヤブなんとか・・・」
と、正面に座っている男の頭頂部を見ながら言った。
「藪田、みんなはヤブって呼ぶ。知念君は奥の部屋だったよね、後で行ってもいい?」
藪田と名乗った男は顔を上げると、箸でハンバーグを掴んだまま俺の顔を見て言った。もっと神経質そうな男かと思っていたが、顔の印象とは違い瞳には素直そうな光を感じた。
「いいよ、でも散らかってるから座るところもないよ」
「どこの部屋も同じさ、たこ部屋だからね」
藪田はそう言うとにやりと笑った。店長の奥さんがたこ部屋という言葉に反応したのか、一瞬だけ俺たちを振り返って睨むように見た。それ以上は何も話さず俺が先に食べ終えると部屋に戻った。
お腹が満たされ眠気に襲われたが、我慢して部屋の片付けをした。片付けと言っても荷物を部屋の隅に寄せるくらいしかできない。まだパソコンはネットに繋げないしテレビはないしゲームもできない。パソコンとゲームとテレビが使えないと何をやっていいか分からない。ギターを弾くという手もあるが、このたこ部屋では壁が薄そうで来た早々弾くのはいくら俺でも気が引ける。そういうのはここに住んでいる連中の様子を見てからにした方がいいだろう。
横になって漫画を読み始めたとき、占い師に言われた運命を味方につける方法を思い出した。あの占い師は言う通りにすれば間違いないと言っていた。今から思えばどうしてあの時あんなに涙が出たのか分からないけど、とにかくあの負け犬占い師に俺の中の何かに素手で触れられ、涙の栓をポンと抜かれたような気がする。俺の一番弱いところを見破られたような気分で、嬉しいような腹が立つような妙な感じだったのを思いだした。占い師の言うことをあっさり信じたわけじゃないけど、たまたま帰り道に文房具屋があり、店の一番奥に石のコーナーがあってそこで小さな水晶玉を見つけた。値段も三千円と手頃で、それならとアンデス産の塩も買いそろえた。確かリュックに入れたままになっているはずだ。
部屋の北に塩を盛って、朝起きたら舐めて………それから太陽を額に浴びて……だった。
夜は水晶を十分間見続けるとか言っていた。塩を盛るというのは大阪で婆ちゃんがやってたから、何となくいいことのような気がするけど具体的に何に効くのかよく分からない。でもまぁ、やらないよりはいいだろう。
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眠くならないシタール [コラム]
今日は久しぶりにホワイトセージの葉を焚いて香りを楽しんだのですが、もう残り少なくなりネットで安く買える店を探していたらいい店を見つけました。その店はセージよりもインド楽器でタブラという打楽器の販売などがメインのようでしたが、かなり高価そうなその楽器の音が知りたくて早速ネット検索をかけました。
タブラは魅力的な音をしていたのですが、シタールと一緒に演奏している場面も多く、次はシタールのいい演奏が聴きたくなり更に検索・・・・
そこでみつけたのがこれです。演奏者はアヌーシュカ・シャンカール (Anoushka Shankar)
シタールのイメージは、緩やかで眠くなりそうな音・・・なのですが、これは別物でした。
この人のCDを買いたくなりました。映像は 1/3 ~ 3/3まであります。
興味がある方は、下記から直行です。3時間ほど、この人の色々な演奏を聴き続け、小説は先に進みませんでした。 プチ「目から鱗」体験した気分です。
1981年ロンドン生まれ、現在26歳の美貌のシタール奏者。父親はビートルズにも影響を与えた20世紀最大のインド古典音楽家/シタール奏者のラヴィ・シャンカール。ノラ・ジョーンズを異母姉に持つ。16歳にして、故ジョージ・ハリスンがプロデュースしたラヴィ・ジーの97年作『チャンツ・オブ・インディア』にコンダクター&アシスタントとして参加。翌98年には初のソロ・アルバム『アヌーシュカ』を発表。以来、父のツアーに常に同行し、薫陶を受けた。2002年のジョージ・ハリスン追悼コンサート『コンサート・フォー・ジョージ』では、父が作曲したジョージ追悼曲の指揮という大役を務め、ジェフ・リンやエリック・クラプトンらとも共演した。 05年にはインド古典~ニュー・エイジ~エイジアン・マッシヴを融合した初のコンテンポラリー・アルバム『ライズ』をリリースし、グラミー賞ワールドミュージック部門にノミネートされた。現在も父の世界ツアーに同行し、その後継者の地位を確立しつつある。
http://www.youtube.com/watch?v=jorJbWfY25o&feature=related
ついでにジョージハリスン追悼コンサートの映像も見つけました。下記です。
http://www.youtube.com/watch?v=u3bGvnx3ygg
吹き溜まり(3) [小説<ろくでもないヤツ>]
吹き溜まり(3)
一階に降りると味噌汁と肉汁の焼けたような匂いが漂っている。店長室の隣の部屋は八畳ほどの広さで真ん中に座卓が二つ並べて置いてある。部屋の端はフローリングが施され、そこで店長の娘の優美さんと、奥さんらしき女の人が一緒に並んで食事の用意をしていた。
部屋に入ったもののどうしていいか分からず、立ったまま動けなくなった。きっと困っているように見えたのだろう、優美さんが座卓を指さし座って待つように教えてくれた。仕事でもそうだが、時々まごついてしまうことがある。単純作業は余り苦にならないが、臨機応変に状況判断をして仕事をするのが苦手で、今もどう振る舞っていいのか分からなかった。要領のいい奴なら配膳を手伝うだろうし、自分に自信のある奴なら迷わず一番奥の席に座って待つだろう。斉藤なら、美味しそうですね、と上手い口をきいて会話が弾むに違いない。
そのどれかをやろうとすると、自分でも嫌になるほど不自然になり変な奴だと思われてしまう。人からどう思われているだろうとか、周りを気にしすぎるのかも知れないけど、気がついたらどうにもならない精神状態になってへこんでしまう。へこみ始めると一気にどん底まで駆け下りてしまうが、そのきっかけは取るに足らない些細なことばかりだ。本当は自分を見失い口もきけないほど気持ちが弱っているだけなのに、身体が大きいせいで無愛想で生意気な奴だと言われる。まるで自分の中に二人の人間が住んでいるようで、気持ちが攻撃的になったときだけは、自分の身体がとてつもなく巨大になったようでとても気分がいい。毎日上がったり下がったりでエレベーターのようだ。
今は危うく下がりかけたけど、優美さんがさり気なく助けてくれた。きっと優美さんは何も気づいていないと思うけど、さり気なく人を助けられる人はそんなにいない。大抵は追い打ちをかけるようにもっと谷底に突き落としたり、馬鹿にしたり辱めたりする。それだってヤツらにすればさり気なく悪魔に変身しているだけだ。
「どうぞ、私が作ったのよ」
優美さんは俺の前にハンバーグを置くと、お母さんだと言って店長の奥さんを紹介してくれた。お袋よりずっと老けて見えるけど同じ位の歳なのかも知れない。化粧っ気はなく、俺に似て無愛想だ。頑張ってねとハンバーグを焼きながら少し振り返っただけだ。きっと俺は期待されていないのだろう。俺もよろしくお願いしますと言っただけで会話はそれで終わった。優美さんもそれっきり話しかけてくることはなく、お母さんと一緒にキッチンに立っている。十数人分の食事を間に合わせるのに大変なのだろう。配達は二時間ほどで終わると言っていたからそろそろ帰ってくる頃だ。
食べ始めてしばらくするとバイクの音や自転車のブレーキの音が聞こえ、次々に部屋に入ってくる。誰も手や耳を真っ赤にしているが額には汗が光っている。その頃には座卓にハンバーグが並び始め、自分でジャーからご飯を山盛りにすると、どかりと座って食べ始めた。会話らしい会話もなく、ハンバーグの焼ける音と食器の当たる音が響く。何人かは俺と視線が合ったが、誰も話しかけてこない。ヤツらが配達に出かけるときの勇ましく清々しい印象はどこに行ってしまったのだろう。俯いたまま黙々と食事を口に運んでいるだけだ。早い奴はあっという間に食事を平らげ怒ったように立ち上がると二階へ消えた。一緒に座卓を囲んで飯を食っているのにまるで牢獄のようだ。優美さんの丸い顔から表情が消え、今度は食器の片付けに追われている。適当なところで店長とかが来て俺の紹介くらいはしてくれるかと思ったらそれもない。自分で勝手にやってくれということらしい。
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吹き溜まり(2) [小説<ろくでもないヤツ>]
吹き溜まり(2)
順路の案内が終わると痩せた男はさっさと店に戻り、残された俺は仕方なく順路を確認しながらメモを頼りに来た道を戻った。店に着くと時計はもう三時を過ぎ、若い男たちが忙しそうに立ち動いている。初めてここに来たときに見かけた男も自転車の籠に夕刊を押し込み、痩せた男も同じように新聞を積み込んでいる。バイクは三台で、使っているのは皆俺よりもずっと年上で専業店員なのだろう。
店に入ると店長が俺を呼び、今日は順路を覚えるだけで、後は6時過ぎに隣の部屋で飯を食えと言われ、付け足すように奨学生になれと勧められた。この店は専業が三人いて、後は皆バイトで俺を入れて9人いるらしい。大学生は二人で六人は浪人生、俺みたいな宙ぶらりんは他にいない。行きたければ高校だろうが大学だろうが、予備校だって金を出してやると言われた。そうでなければ専業にもなれるらしい。俺はどちらにも気が進まず、考えさせて欲しいと返事をして部屋に戻った。お袋の話をもう少し訊きたかったが、そんな話のできる雰囲気ではなかった。とにかく当分ここで我慢して暮らすしかない。
俺と同じ年頃の連中が師走の街に新聞を満載した自転車を操りながら店を出て行き、俺は電気ストーブで手を温めながら二階の窓から見送った。だれも元気そうで、我先に路地から大通りへ飛び出していく。俺が今まで付き合うことのなかった種類の連中だ。勉強する為に働くなんて考えられないし、金を貰ったって勉強なんかしたくない。勉強ができないことは小学校の時から嫌と言うほど思い知らされたし、結局勉強のできる奴には勝てないことが身に染みてわかった。だから俺には落ちこぼれの人生しか待っていない。夢なんて持ったことがないし、何かを夢見たとしても辛くなるだけだ。だから最初から叶わない夢なんて持たない方がいいに決まっている。
身体が温まり眠くなってきた。目を閉じると静かになった一階から包丁の音が聞こえてくる。夕飯の準備だろうか、店長の奥さんが朝晩の食事を用意するらしい。時々若い女の笑い声が聞こえるのは店長の娘だろうか、確か優美という名前だった。料理を手伝っているのかも知れない。閉じた瞼に丸顔の女がおぼろげに浮かんできた。今まで好きになった女の子は何人かいたけど、付き合ったことは一度もない。近くにいても上手く話せないし、俺が近寄ると避けられるような気がして、いつの間にか男ばかりと過ごすようになった。
だから俺の周りはいつも落ちこぼれの男ばかりで、女の話はするけど現実になったことは一度もない。ナンパでもしろよと偉そうに言う斉藤だって、本当のところは自分だって上手くいったことはないと思う。瞼の向こうで微笑んでいる娘の顔がぼやけてきた。
何かの物音で目が覚めたようだが、よほど疲れていたのか頭がぼんやりする。散らかった室内を見廻してようやく意識がはっきりしてきた。
「優美です。知念さん、夕食ができましたよ」
ドアをノックする音と一緒に、弾むような若い女の声で声で名前を呼ばれた。予想もしない出来事で、自分が思った以上に高くて大きな声で返事をしてしまった。おまけに慌てて返事をしたせいでゴホゴホとむせ込んでしまった。ドアの向こうでクスリと笑う声が聞こえる。
「今日のハンバーグ美味しいわよ、慌てずにどうぞ」
店長の娘はそう言うと、階段をトントンとリズミカルな音を立てて降りていった。
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吹き溜まり(1) [小説<ろくでもないヤツ>]
吹き溜まり(1)
窓から路地を見下ろすと、その片側に新聞店の自転車と原付バイクが我が物顔に並んでいる。俺は免許を持っているから原付が使えると思っていたが、台数がなく自転車を使うことになった。路地を見下ろすこの小さな部屋が俺の住み家になるのかと思うと、まるで外国に一人で放り出されたような気分がする。
バネがポンと弾けてしまったように引っ越しと仕事を決めてしまい、部屋に残された婆ちゃんは、荷物の整理が済んだら部屋を引き払い大阪に帰ると言っていた。何かある度に自立しろとお袋に言われたが、そのお袋が死んで否応なく自立することになった。婆ちゃんの言うように大阪に帰ることもできたが、この東京のどこかに犯人がいると思うと、大阪に行ってしまうのは逃げ出すみたいだし、お袋を捨ててしまうような気がした。この新聞店だけがお袋の過去に繋がることができるし、犯人の手がかりがありそうな気がする。警察はお袋の交友関係を中心に捜査を進めているらしいが、俺の知らない秘密めいたことがあるのだろうか。店長の様子ではここまで捜査は及んでいないようだ。
荷物は午前中に運び込んだままで何も整理していないし、午後は配達順路を教えてもらうことになっている。教えてくれるのは専業さんと呼ばれる正規の店員で俺はバイト扱いだ。ここで待っていれば呼びに来てくれる。窓際に腰を下ろして部屋の中を見廻したが本当に何の設備もないただの箱のような部屋だ。せめて押し入れがあれば布団や衣類などをしまうことができるがそれもできずに部屋の隅に積み上げてある。三畳の広さではそれだけで半分ほどのスペースが一杯になり、空いたところにギターやアンプ、好きな漫画などが雑多に置いてある。この有様を見るだけで気が滅入ってくるし、順路を覚えるというのも自分にできるか自信がない。
「知念君いるか」
しゃがれた声と一緒にドアがノックされ、開けると針金のように細い身体の男が痩せこけた顔を突き出した。部屋の中を宝物でも探すように見廻し、それから俺の顔を見て着いてこいというように顎を動かし階段を降りていった。歳は四十近くで意地悪そうな感じだ。こんな男と一緒に仕事をするのかと思うだけで嫌になった。今まで仕事が長続きしなかったのは、仕事がきついとか色々あったけど、一番多いのは嫌な奴に怒鳴られたり虐められたりしたことが原因だった。嫌な奴だと思うとすぐに態度に出て、無愛想になり自分からは口を利こうともしなくなる。友だちに言わせると、体格のいい俺が黙って不機嫌にしていると威圧感があって生意気に見えるらしい。だから余計に目の敵にされると言っていた。
もっとフレンドリーになろうと努力したこともあったけど、どうしても上手くできず、意識すればするほどぎごちなくなりもっと悪くなってしまった。いつの間にか人間関係の少ない仕事を探すようになり、新聞配達は俺にとってはいい仕事だと思えた。
一階に降りると痩せ男が俺に手帳を渡した。六区順路帳と書いてある。
「案内するからこれにメモしとけ」
不機嫌そうに言うとさっさと店を出て行った。慌てて後を追うと顎で自転車を指し、どうやら乗れと言うことらしい。読朝新聞と大きく書かれた業務用の自転車にまたがり、大通りを少し走ると後は狭い路地ばかり走った。三百軒余りの家やマンション、アパートを一筆書きのように道順を覚えるなんてとてもできそうにない。しかも似たような道が幾つもあり、その度に帳面に目印を書き込んだ。順路を最後まで行くと自分がどこに居るのかもわからず、帰り道の方向さえわからなくなった。
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占い(20) [小説<ろくでもないヤツ>]
占い(20)
「見せかけの威勢はいいが、ボロボロだな。可哀想な男だ。もう少し話して見ろ」
占い師は俺の質問を無視して言った。まだ空を見上げたままで目も閉じている。可哀想な男だと馬鹿にされたのに、悔しいが怒りの代わりに涙が出てくる。その涙が勝手に話を引きずり出し、気がついたらお袋がホテルで殺されたことや、植村から聞かされた話まで喋ってしまった。
「………いいことだ。ようやく運命の歯車が動き出したな。これからのことを話してやるからよく聞け」
占い師は音を立てて筮竹を動かした。
「運命というヤツは容赦がない。決められた通りきっちり動いてくる冷酷なヤツだ。そんな相手でもやりようによっては味方になってくれるが、そう簡単じゃないぞ。俺の言うことをきっちり守ることが出来れば大丈夫だ。俺の言う通りに出来るか?」
占い師は突き刺すような眼差しで俺を睨んだ。
「何だっていい、どうせ俺なんかこの世に居ても居なくても関係ないし、親父もお袋も殺されたからきっと俺だって似たような運命になっちまう。今ここで誰かを殺せと言われたらできる」
俺は涙を拭いて占い師を見返した。
「威勢だけはいいようだな。頭がいいより悪い方が都合のいいこともあるが、お前は都合がいい。これから言うことを、言われたようにやるだけだ。難しいことは何もない。三つのことを毎日欠かさず実行するだけだ。まず一つ目は朝やることだ。部屋の北側に塩を盛って置いて、目が覚めたら一番にその塩を少し舐めろ。二つ目は、太陽の見える場所で太陽に向かって立つ。おでこに光を感じて暖かくなるまでだ。おでこに光を感じるのが大事だから忘れるな。最後は夜やることだ。小さな水晶玉を用意しろ、ガラス玉じゃダメだ。眠る前にその水晶玉を十分間見つめろ、視線を外すな。これだけだ。わかったらさっさと金を払って帰れ」
占い師は話し終えると筮竹を乱暴に筒の中に放り込んだ。この前もそうだったが、話している内にだんだん苛立ってくるのがよくわかる。こんな貧相で口の悪い占い師に人が並ぶはずがない。俺はこの前より少し丁寧に金を器に入れると黙って立ち上がった。この前は腹が立ったが今日は妙な心地がする。もしかしたらこの占い師は俺と同類なのかも知れない。しばらく歩いてこの前と同じように振り返ってみると、やはり占い師の周りだけがぽつんと取り残されたように見える。人通りの多いあの中に真っ黒な穴が開いているみたいだ。もう少し歩いて振り返ったら、あの占い師は蒸発して消えているような気がした。
渋谷駅までの道を人の流れに乗って歩いたがなんだか感じが違う。肩の力が抜けたようでとても楽だし、誰も俺のことを軽蔑したような目で見ない。前を歩く女の尻にばかり気を取られていたからだろうか。俺はその尻を追いかけるように渋谷駅まで歩き、女は別の方向に歩いて行った。まるで自分の彼女のようにその後ろ姿を立ち止まって見送った。
あんな尻をした女と付き合いたい。顔は見なかったけどきっと美人に違いない。仲間の中で女を知らないのはもう俺だけで、ナンパでもしろよと馬鹿にされるがまだ一度もやったことがない。
駅のホームまで歩くのが急に怠くなり、新聞店でのことが頭に浮かんだ。植村から聞いた父の話は本当なのだろうか。誰にどうやって殺され、殺された理由は何だったのだろう。お袋はそのことを婆ちゃんに話したのだろうか、お袋に訊きたいことが膨れ上がってきた。
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占い(19) [小説<ろくでもないヤツ>]
占い(19)
俺は息苦しくなり、目の前の書類に汚い字でサインをすると店を出た。とにかくここで働いてみるのも手だし、植村という男にも興味がある。どっちみち今の仕事は辞めようと思っていたし、探すのも面倒だ。引っ越しは大した荷物はないが、隣の運送屋に頼んで明日の午後に軽トラックを一台寄越してくれることになった。だから実際の仕事は明後日からになるが、最初は配達の順路を覚えるのが仕事で、配達をするのはもう少し後になるらしい。
しばらく歩いてから店を振り返ると、舞台裏を見たせいか来た時と違って見える。きっと俺自身も違って見えるに違いない。ポケットに手を入れるとバタフライナイフの冷たい感触が伝わってくる。俺は植村昌人が怪しいと思ったら本気でナイフを使おうと思っていたのだ。悲しさを憎しみが包むと恐ろしい程の力を持つ。悲しみが深ければ深いほど狂気は膨れあがる。植村を犯人だと疑いながら店の玄関に足を踏み入れたとき、俺の瞳は異様な光を宿していたに違いない。きっとその光に気づいていたはずなのに、植村はまるで何も気づかないように平然と俺に働くよう勧めた。店を出て落ち着いてみるとそのことがわかった。植村昌人はお袋を殺してはいないだろう。それどころかお袋とどういう関係だったにせよ、お袋が大切に考えていた一人だった。
帰り道にバイト先に寄り仕事を辞めることを伝えた。係の人はそんなことはもう慣れっこになっているのか、事務的な話を済ませロッカーの鍵を受け取ると残りの給料を支払ってくれた。それで一切の終わりだ。仕事の関係とはあっけないものだ。ここには友だちもいないし、親しい人すらいなかった。街を歩いていてすれ違う人と何も変わらない。ただすれ違っただけだ。
渋谷駅に向かう途中であの占い師を思い出した。今日もいるのだろうか。俺は占い師の言ったように小さな荷物をそう遠くないところへ運んだばかりなのだ。確かそれが俺の運命の入り口とか言っていた。占い的中みたいにも思えるが、考えればそんなことは俺だけのことじゃない。通りを歩く人を見れば誰だって小さな荷物を抱えて歩いている。
占い小路の先に目をやると、一カ所だけ妙な空気に包まれているところがあり、そこがあの占い師の場所だとすぐわかった。思った通り周りの占い師とは違って誰も並んでいない。運命鑑定五百円也という看板が頼りなげに立っている。誰が見てもしょぼくれた負け犬に見えるだろう。
俺は堂々と歩いて占い師の前に立ち上から見下ろした。
「この前の続きを鑑定してくれ」
俺はそう言うと、座れと言われる前に腰を下ろした。占い師は居眠りでもしていたのだろうか、怠そうに顔を上げると俺の顔を見た。
「………あんたか………運命の入り口なんて嘘っぱちだ。そんなものはどこにでも転がっている。見つけた者勝ちなのが世の中ってもんだ。今日は何が聞きたい」
占い師はまるで俺の考えを見透かすように言ったが不思議と腹が立たない。
「死んだらどうなる」
占い師を真正面から見て言った。からかっているつもりもないし、ふざけてもいない。勝手に口をついて出た言葉だった。婆ちゃんは死んでも側にいるって言うけど、それだけじゃわかったようで何一つわからない。占い師は答えに迷っているのかそれとも勿体ぶっているのか、のんびりした手つきで筮竹を捏ねくり回し始めた。そんなの関係ねぇだろうと思うが、黙って見ているとしばらく空を見上げるようにして動きを止めた。
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